日本音響研究所 所長
鈴木 創さんにききました
声紋鑑定、映像作品の監修など、幅広く活躍する
音響解析のプロフェッショナル
日本音響研究所は音声研究を手掛ける民間企業です。刑事・民事事件に関する声紋鑑定や、音に関する商品開発、音響に関するコンサルティングなどをてがけており、所長の鈴木創(すずきはじめ)さんは音声解析の専門家として活躍されています。
現在、教え方研究所は日本音響研究所の協力を得て、受講生や講師の音声サンプルをもとに英語発音の本質を共同研究するプロジェクトを進めています。
鈴木所長からみる教え方研究所の発音メソッド、また現在共同で進めている発音学習アプリの開発についてのお話をお伺いしました。
田中代表との出会いは突然の電話!
教え方研究所の田中代表とのお付き合いはもう三年近くになります。ある日突然電話がありまして、「英語の発音について、音声分析のプロから意見をもらいたい」というお願いをされました。
そしてお目にかかった時「英語をしゃべれない人が、しゃべれるようになるためのメソッド」というのをお話しいただいたんです。
田中代表はご自身が大人になってから英語を身につけ、そして自身のメソッドを使って、お嬢さもバイリンガルとして育てることに成功しました。それだけでもすごいと思うのですが、田中さんは日本人とネイティブの音の違いを研究し、深く理解していることに興味をもちました。
というのも、我々もこれまでに、英語の発音についてはいろいろな依頼がありました。しかしどれもネイティブの方を呼んで来て……というパターンばかりでしたので、『ネイティブが出している音』が『日本人が出している音』と『違う』ということしかわからず、それ以上に発展することはなかったからです。
しかし、田中親子は『違い』について、その正解の出し方を知っているわけです。
「あなたの"S"の音は少し太いから、舌先に力を入れて細い音を出して…」というように、その人の音を聞いて口の中の状態を察知し的確にアドバイスすることができます。
それだけでなく、お二人とも、完璧な美しい発音から日本人の陥りやすいダメな発音まで、たくさんの段階に分けて再現できるということには驚きました。
これは非常に音声データを集めやすいですし、またそのデータは『日本人が発する音でありながら英語として正確な音』ということであり、音声分析のプロフェッショナルとして強い関心をもちました。
ネイティブあるいは日本人でも、外国で育つなど子どものころから自然に話せるようになった人は、どうやって英語を、またその発音を身につけたか、本人自身がわかっていないことがほとんどです。
そのなかで、成人してから英語を身につけ、『どうしたら日本人が英語を美しく発音できるのか』という部分に着目し研究してきた田中さんの知見は、教育はもちろん、英語という音声の正体を捉えるためにも役に立つと思います。
音の分析からみる日本語と英語の違い
一般の人に音の分析をわかりやすく説明するには、可視化することが大切ですが、一番シンプルなのが波形というものです。横軸に時間を取って、縦軸に音の大きさを取って、その音の大きさの変化を見ていくということになります。それに加えて音の高低を示す周波数分析というのをやっております。
周波数別に、例えば"s"の音が出ているときは12,000Hzぐらいのところに細い線が出てくるとか、可視化することによって、自分が出している音と、相手が出している音を比較することができるというのが声紋鑑定ですね。
日本人の話す英語について、分析を通じて思ったことは、『ローマ字の弊害が大きい』ということです。
日本語だけをやっている分には、ローマ字は本当にありがたいものですし、英文字を読む、ひとつのとっかかりになる面があるとも言えなくはないですが、発音に関しては弊害のほうが大きいと思います。
しかし、小学生のうちにローマ字がみなさんの頭の中に入ってしまっているんです。英語は日本語と違って子音と母音の組み合わせだけでできているわけではありません。また日本語のように「あ、い、う、え、お」と一音一音、はっきりと発音するのではなく、「あ~い~う~え~お~」と、音と音の境目をなだらかにつなげていく必要があります。
我々はこのプロジェクトの中で、発音学習をアプリ化しようというのがありまして、出した音を自動判定してくれるようなものを目指しています。日本人全員が正しい発音をできるようにするには、何らかの形で正解の音を判定するシステムが必要だということです。
個人差を排除した正解の音を抽出するとは?
発音は、たとえネイティブの人が話したとしても、もちろん個人差があるわけです。さらに、アメリカにだってイギリスにだって方言もあるわけで、世界中に○○なまりというのがあります。
その中でどれが正解の音かというと、たとえば色の三原色で、赤、青、黄色の円があって、その三つが重なったところが黒というものがありますね。それを音に置き換えたときに黒になる部分を抽出することで、誰にでも聞き取りやすい中庸の音が導き出せるわけです。
それが、田中代表のいうところの『日本人の話す美しい英語』というものにあたると思うんです。
その音が出せれば、そして聞き取れれば、アナウンサーのような正確な英語を話す人だけでなく、いろいろな英語を聞き取れるし、話せるようになるということです。
人間が判定するとなると、その判定ができる人をたくさん育てなくてはならないし、もちろん人間には聞こえ方も判断も個人差もあるわけです。そこをアプリなどで機械的に判定できればいいということですね。
音声の分析は、その面ではとても役立つと思います。
私はもう少しそれを極めていきたいと思っています。
教え方研究所より
音声の分析の専門家である鈴木所長から見ても、教え方研究所のメソッドには有用性があると認めていただき、音の分析やアプリの開発にお力を貸していただけることになったこと、大変光栄です。
ひとりでも多くの方にこのメソッドで「日本人の話す美しい英語」をお伝えし、広めていきたいと思います。